本気の恋を、教えてやるよ。
「ううん、駒澤くんは悪くないよ。私が同じ立場でも、不安になるもん」
これからはちゃんと言うね。そう俺を安心させるように微笑む稲葉。
……ダメだな、自分の彼女に気を遣わせてるようじゃ。
こんな弱くて情けない自分を知られたくなくて、俺は稲葉の視界から自分を消すように、その柔い身体を抱きしめた。
「駒澤くん、今日は夕方から係の仕事で……」
申し訳なさそうに稲葉が伝えてきたのは、四月の終わり、ゴールデンウィーク前のことだった。
わざわざちゃんと伝えてくれたことに対する嬉しさと、それに相反する複雑さ。
「……そっか。終わるの、待っててもいい?」
「うん、ありがとう!」
終わったら連絡するね、と言う稲葉と別れ、そして夕方。
定時を少しすぎたところで、【もうすぐ退勤します!】というメッセージが入り、俺も直ぐに帰り支度をする。
エントランスで丁度行き合い、稲葉が駆け寄ってきた。