本気の恋を、教えてやるよ。
稲葉と帰った翌日。
たまには給湯室で珈琲でも淹れるかと立ち寄った先で出会したのは、俺の心を揺るがしてやまない筒井本人だった。
……同じフロアだから同じ給湯室を使う機会があることは仕方ないにせよ、タイミングがある意味良すぎるだろ。
「久しぶりだな」
「……ああ」
ふ、と口元を緩めた筒井をどうしても睨むような目付きになってしまう。
対する筒井の雰囲気は柔らかく、前とは最早別人のようだった。
「稲葉と、付き合ってるんだってな」
ふと筒井の紡いだ言葉に違和感を覚えて、──その正体に気が付いた。
……苗字で呼ぶようにしたのか。
「そうだよ」
今、稲葉と付き合ってるのは俺だ。
稲葉のことを支えてるのは、俺なんだ。
だからもう、俺たちに関わるな──と。いつかの筒井のようなことを考えていることに気がついて自嘲する。
あの時の筒井と俺とじゃ状況が全く違うけど、あの頃の筒井もこんな気持ちだったのかもしれない。