本気の恋を、教えてやるよ。




……ううん、どれも違う。


ここは──笑うべき。


私は、一瞬フリーズしてしまった表情筋をどうにか緩ませ、へらりと笑って見せた。力のない、情けない笑みだろう。


こんなふうに笑ってみせるのも、もう、何回目かな。


「あー……、邪魔しちゃった?ごめんね。私、帰るね」


努めて明るく、そう言って部屋から出ていこうとすれば、「茉莉(まり)」と彼に呼び止められる。


反射的に足を止め、ちらりと彼を見ると、彼はベッド脇のサイドテーブルからスマホを取り、ひらひらと左右に振った。


「これ、取りに来たんじゃねーの」


そう。彼が持っている、彼とお揃いのカバーをつけたスマホは私のもの。


昨日ここに忘れてしまったのを、仕事帰りに慌てて取りに来たら、こんな状況だった。


扉へと向きかけていたつま先をもどし、僅かに目を伏せる。


「うん……ありがとう」

「後で連絡する」

「わかった」



< 3 / 392 >

この作品をシェア

pagetop