本気の恋を、教えてやるよ。



茉莉が無機質な瞳で、それでも俺を見てくれているうちは──。


そんな風に考えていた矢先だった。駒澤が現れたのは。


整った顔立ちと、表に滲む程ではないにしてもさり気なく優しい立ち振る舞いは、男の俺から見ても文句無しにいい男で。


茉莉の心を、簡単に攫っていく。


俺に傷付けられた茉莉を、その優しさで支えて、包みこもうとする。


最初はどうしようもなく焦った。

茉莉が駒澤と話しているだけで、胸が引き裂かれたように痛くて、息も出来なくなって。


気付けばまた、君のことを殴っている。

でももう、謝る言葉も枯れてしまっていた。


だってどうせ、駒澤に慰めてもらうんだろ?

俺の知らないお前を、あの男には見せるんだろ。


──そう思うと、湧き上がるのは黒々とした醜い感情ばかり。


それから、少しの罪悪感。


俺が浮気し出した時、茉莉はこんなき苦しかったんだろうか。回らない頭で、今更そんなことを考えた。



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