本気の恋を、教えてやるよ。
アンタが駆け寄るべきなのは、心配するべきなのは、その男なんかじゃなくて──。
「稲葉……なんでそいつの心配なんかすんの?」
筒井の傍に膝をつき、大丈夫?と様子を伺っている稲葉に声掛けると、稲葉はびくりと肩を跳ねさせた。
なんだよその反応。
なんで俺に怯えんの?
「ぼ、暴力はダメだよ……」
……散々そいつに振るわれてたのに、よくそんな風に筒井を心配できるな。
そんな醜い感情が、ひたひたと足元を浸す。
「……なにそれ。てかさ」
ドアを開けた時から、思ってたんだけど。
なんで。
なんで、アンタ。
「──キス、拒まなかったの?」
俺の勘違いかもしれない。
本当は拒んでいたのかもしれない。俺が見えなかっただけで。
だけど、俺から見えた稲葉は無抵抗で。
今にもキスを受け入れてしまいそうな──そんな、気がした。
違う、って一言否定してくれればそれでいい。