本気の恋を、教えてやるよ。




「浮気なんてしたことないし、誘惑だってしてない。それに、新田さんにはちゃんと奥さんがいるんだよ……?」


私に他の男を誘惑する術も時間も、心の余裕も、あるわけが無いのに。


しかし、それは慶太の望む答えではなかったようで、昏い瞳に鋭い光を走らせたかと思うと、慶太は眉をつりあげて激昂した。


「他の男にヘラヘラすんなっつってんだよ!」


次の瞬間、パシンッ!という乾いた破裂音がして、頬がヒリヒリと痛みを覚える。


下唇を噛み締め、痛みにじっと耐える私を、慶太は温度のない視線で見下ろした。


「次同じことしたら、こんなもんじゃ許さねーから」


そう言って、部屋を出ていった慶太。


会議室の机には何も無く、確認したいことがあったなんて真っ赤な嘘だったんだな、と今更思う。


戻らなきゃ。そう思うけど気力が出ず、叩かれた頬を押さえながらずるずるとその場に座り込む。


あーあ、きっと真っ赤になってるんだろうな……。



< 32 / 392 >

この作品をシェア

pagetop