本気の恋を、教えてやるよ。



ただ漠然と、途方もない苦しさが足元を浸していて。


どうしようもなく、泣きたくなる。





「──この前は、ごめんなさい」

それから、稲葉と二人、施設内のカフェへとやって来た。


隅っこの席で、二人向き合う。

でも、視線は絡まなかった。


「ごめんなさいって、何が?」


それは何に対して謝ってんの?


「それ、は……私が、駒澤くんを裏切ったから……」


カラン、グラスの中で氷が溶ける音がやけに響く。


裏切ったって、何。──そんな言葉は、乾いた喉に張り付いて出てこなくて。


ここから逃げ出したい、と本能が騒ぐ。

だって、嫌な予感しかしないから。


何も言わない俺に、稲葉の視線が泳ぎ、やがて、血色を失った唇が小さく息を吸う。


「……私、慶太の傍に居てあげたい」


ほら、予感的中。

決定的な一言。もう逃げられない。


ガラガラと崩れていく、俺たちの関係。



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