本気の恋を、教えてやるよ。
「駒澤くん……?」
「早く行けよ!とっとと筒井んとこ帰れ!」
堪えきれず怒鳴れば、稲葉は引っ叩かれたような顔をして、飛び跳ねるようにその場から走り去った。
「……くそっ」
この燻るやるせなさをどうすればいいのか分からなくて、下唇を噛み、塒を巻く感情を握り潰すように拳に閉じ込める。
……稲葉はもう、どこかが狂ってしまっているんだろう。
どうしようもなく依存して、盲目に愛して。
──俺はそんな呪縛のような関係から、彼女を救ってあげたかったけど。
「俺じゃ、駄目なのかよ……っ」
救えたと勘違いしていた彼女の心は、いとも容易く奪い返されてしまった。
本当は渡したくなかった。
手放したくなんて、無かったのに。
でも、あんな苦しそうな顔をされたら。困ったように見つめられたら。
俺はもう、君を止める術を持たなくて。
君の手を、自ら手放した。