本気の恋を、教えてやるよ。



慶太が私にそう訊くのも無理はない。


さっきから唇は強ばって引き結んだままだし、手のひらも無意識にぎゅっと握ったまま。


「久しぶり、だからかな」


はは、と笑ってみせた声が固い。きっと、私の表情も。


なんで。

なんで。


こんな時に思い出すのは、別の人。


今キスをしているのは、慶太なのに。それなのに、思い出すのは慶太とのキスじゃなくて──……。


目を瞑ってしまうと、思い出すのは慶太じゃなくて彼だから、目を瞑らないようにした。


「……っ、」


慶太の手が背中に回り込み、小さな音と共に胸元の締め付けが軽くなる。


ぶるっと思わず身震いした自分の腕を見て、息が止まった。


……なんで、鳥肌なんて──。


好きな人に触れられたら、ドキドキして、熱くなって、思考ごと浚われて。


そんな心地良さが、あるはずなのに。


熱くなるどころか、冷えていく身体。



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