本気の恋を、教えてやるよ。



でも、今更合わす顔も無ければ、話しても苦しいだけだって分かってたから、俺は稲葉を見かけると逃げる癖がついてしまっていて。


壱人はそんな俺たちの様子を、鬼ごっこと揶揄してくる。


……本当に、どういうつもりなのか。


今更俺と何の話をするつもりなんだよ。


まさか、筒井と無事にまとまりましたーとか、そんな報告?

……そんなことされたら、ブチ切れそう。


「話してあげたらいいのに」

「……」

「お前だっていつも、稲葉さんのこと見てるくせに」


──そんな壱人の言葉は、図星で。


追いたくなんか、見たくなんか、無いのに。

俺の視線は未だに、いつだって稲葉を追ってしまう。見つけてしまう。


ふとした瞬間、窓の外に帰宅する稲葉の姿を見つけたり。


稲葉の働くフロアを通る時、ついその姿を探したり。


……自分が女々しくて、嫌になる。


「……今更だろ」


頼むからもう、これ以上俺の心に土足で踏み込んでくるな。




< 368 / 392 >

この作品をシェア

pagetop