本気の恋を、教えてやるよ。
でも、今更合わす顔も無ければ、話しても苦しいだけだって分かってたから、俺は稲葉を見かけると逃げる癖がついてしまっていて。
壱人はそんな俺たちの様子を、鬼ごっこと揶揄してくる。
……本当に、どういうつもりなのか。
今更俺と何の話をするつもりなんだよ。
まさか、筒井と無事にまとまりましたーとか、そんな報告?
……そんなことされたら、ブチ切れそう。
「話してあげたらいいのに」
「……」
「お前だっていつも、稲葉さんのこと見てるくせに」
──そんな壱人の言葉は、図星で。
追いたくなんか、見たくなんか、無いのに。
俺の視線は未だに、いつだって稲葉を追ってしまう。見つけてしまう。
ふとした瞬間、窓の外に帰宅する稲葉の姿を見つけたり。
稲葉の働くフロアを通る時、ついその姿を探したり。
……自分が女々しくて、嫌になる。
「……今更だろ」
頼むからもう、これ以上俺の心に土足で踏み込んでくるな。