本気の恋を、教えてやるよ。
稲葉との距離が、ぐっと近づいた夏。
抱きしめた時の甘い香りや、からかったときの赤い顔を思い出して、落ち込む。
……あん時はほんと、舞い上がるくらい幸せだったな。
そんなことを考えながら走っていると、気づけば一周していて、ふと、食欲を刺激するような香りが鼻を掠める。
それに釣られるように歩幅も大きくなり、砂利を踏み締めながら誘われるように香りを辿る。
そうだ、去年もこの香りに釣られて行ったら──。
「駒澤くん……」
こうして、君が居たんだ。
まるで、あの日を再現したかのように同じ光景に、懐かしさが込み上げてくる。
「でももう、こういう事するなよ」
期待してしまうから。
わざわざ俺のこと追いかけてくれたのかな、とか。
……俺にもまだ、チャンスあんのかな、とか。
そんなわけ、無いのに。
「……筒井も、そんなの嫌がる──」
「違うの……!」