本気の恋を、教えてやるよ。




背中のひっつき虫を剥がしながらポケットに財布を突っ込み、部屋を出ると、あちこちの部屋から出てきたスーツ姿で廊下はごった返していた。


壱人がそれを見て、ほわ〜、と間抜けな声を出す。


「いやー、こう見るとほんと新入社員多いよな。同期なのに絶対名前覚えらんねー!」


あちこちの部屋から出てくるスーツ姿は全部同じ会社に入社した同期だった。


大手企業で、数が多いので合同研修期間はビルのワンフロアを数日貸し切り、そこで研修が行われるのだ。


それも、一室には集められないのである程度の職種ごとに振り分けられる。


俺や壱人が居る部屋は、将来的に開発部隊に配属される予定の新入社員が集められていた。


「はー、やっぱ俺たちの部屋は圧倒的に男が多いけど、女の子が沢山いる部屋もあんだなあ」

「……あんまジロジロ見んなよ。ほら、行くぞ」


キョロキョロ忙しない壱人の後頭部を引っぱたき、エレベーターへと向かう。



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