本気の恋を、教えてやるよ。



エレベーターへと向かうため、隣の部屋の前を通り過ぎようとした、その時。


──ドンッ……!


「わっ……!」


体への軽い衝撃の後、聞こえてきた小さな高い声。


どうやらドアの前を通り過ぎる時に、部屋から出てきた奴とぶつかってしまったらしい。


胸の下辺りに飛び込んできたその存在に、俺は大丈夫か、と聞こうとして目を瞠った。


ふわふわとウェーブがかった、柔らかそうなアッシュブラウンの髪。


ややたれ目の、黒目がちな大きな目に、桜色の小さな唇。


細い首に、華奢な肩、白く透き通る肌理の細かい肌──。


「あ、ご、ごめんねっ!大丈夫……?」


唇から紡がれるその声さえもタイプで、俺の好みどストライクだった。


これが、稲葉との出会い。


そして俺が稲葉に恋をした瞬間。所謂、一目惚れというやつだ。




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