本気の恋を、教えてやるよ。
多分、その先を言ってしまうことを躊躇っているんだろう。
……私は、大丈夫なのに。
「梓ちゃん、大丈夫。あの時のことだって、あれは別に私にとっては普通だもの。だから、大丈夫」
『違う!あんなの……彼氏に殴られることが、普通なわけが無いでしょ!』
苦しそうに吐き捨てたあとで、『あ……いや、』とハッと戸惑ったように言葉を濁す梓ちゃん。
けれどそんな言葉ではもう、私の心は波立たない。
普通じゃない。
それはもう、周りに何度も言われてきた言葉。
だけど私にとっては、これが“普通”だった。
今も──これからも、きっと。
『私、何回でも言うよ。茉莉、あんな男とは別れなさい』
「……梓ちゃん」
『というかこれからやっぱり会えない?茉莉の無事、ちゃんとこの目で確かめたい』
ダメって言われても、あんたの最寄りまで押しかけるから!と半ば脅迫のように押し切られる形で会う約束をし、通話を切る。
終わり際、茉莉の大丈夫は信じてないから。と駄目押しのように言われたことを思い返し、思わず苦い笑みが零れるのだった。