本気の恋を、教えてやるよ。



多分、その先を言ってしまうことを躊躇っているんだろう。


……私は、大丈夫なのに。


「梓ちゃん、大丈夫。あの時のことだって、あれは別に私にとっては普通だもの。だから、大丈夫」

『違う!あんなの……彼氏に殴られることが、普通なわけが無いでしょ!』


苦しそうに吐き捨てたあとで、『あ……いや、』とハッと戸惑ったように言葉を濁す梓ちゃん。


けれどそんな言葉ではもう、私の心は波立たない。


普通じゃない。


それはもう、周りに何度も言われてきた言葉。


だけど私にとっては、これが“普通”だった。
今も──これからも、きっと。


『私、何回でも言うよ。茉莉、あんな男とは別れなさい』

「……梓ちゃん」

『というかこれからやっぱり会えない?茉莉の無事、ちゃんとこの目で確かめたい』


ダメって言われても、あんたの最寄りまで押しかけるから!と半ば脅迫のように押し切られる形で会う約束をし、通話を切る。


終わり際、茉莉の大丈夫は信じてないから。と駄目押しのように言われたことを思い返し、思わず苦い笑みが零れるのだった。




< 6 / 392 >

この作品をシェア

pagetop