本気の恋を、教えてやるよ。
普段なら浮気相手の子を話に出すなんてこと絶対にしないが、弱っている慶太につけ込んでちくりと刺してみる。
でも慶太は、眉根を寄せて怪訝な顔をするだけだった。
「……立木って、誰」
やがて、そう聞き返してくるから私は目を見開いてしまう。
え、まさかここに来て、しらばっくれるつもりなの?私に現場を、目撃されてるのに……。
「こ、この前慶太と寝てた人……だよ」
動揺しながら、言いにくさに言葉を詰まらせつつ応えれば、「ああ」と慶太が言葉を洩らす。
「あの人、そういう名前だったんだ……」
「し、知らなかったんだ……アシスタントさんじゃないの?」
「俺の顧客担当じゃないから」
呆然とする私に、平然と言ってのけ、慶太は私の額にキスをする。
そして、いつもよりも光のある意思の強い双眸に、真っ直ぐ見つめられた。
「つまり俺にとってはさ、名前を覚える価値もない女ってこと。……俺には、茉莉だけが居ればいいんだよ」