本気の恋を、教えてやるよ。



クラクラする程の口説き文句に、どう返せばいいのかわからず言葉を失ってしまう。


その間にも慶太は私の首筋に、胸元に、顔を埋めては吸い付き、チクリと赤い独占欲の花を咲かせた。


まるで、私を繋ぎ止める鎖のようだ。


……名前も覚えていないなんて、可哀想だよ。立木さんはあんなに慶太を想っているのに。


でもそんなこと、言えなかった。


言ってしまえばさすがに、慶太が凍てつくような眼差しで怒るだろうと分かってたから。


私はもう少し、つかの間の優しい慶太を感じていたかった。




翌日、お昼になった瞬間、隣に梓ちゃんが仁王立ちで立った。


わあ。怒ってる。


「お、お疲れ様、梓ちゃん」

「お疲れ。早く準備して」

「あっ、ハイ」


有無を言わさないような梓ちゃんの声にコクコクと頷き、急いでスマホと財布を手に取る。


そのまま、梓ちゃんに連れられて近くの定食屋さんにやって来た。ワンコインで食べれるお手ごろさが人気のお店だ。




< 73 / 392 >

この作品をシェア

pagetop