本気の恋を、教えてやるよ。
その真剣さに思わず後ずさろうとするが、重ねられた手をそのまま握られ退路を絶たれる。
「あんな男やめて、俺と付き合おうよ」
やけに甘い声で囁かれ、目を伏せながら顔を寄せてくる先輩。
「ご、ごめんなさい!」
唇が触れる寸前で叫び、顔を逸らすと、先輩がハッとしたように止まり、バツが悪そうに離れていった。
私は、驚きや焦りでバクバクと鳴る心臓を宥めながら、さらに彼と距離をとる。
「ご、ごめんなさい。……そういうの、考えられない、ので……」
「……こっちこそ、無理矢理ごめん」
「いえ、お気持ちは嬉しかったです……」
首を振り答えると、先輩が切なさを滲ませ寂しそうに微笑んだ。
「稲葉さんがそこまで言うなら、さすがに諦めないとな。聞いてくれてありがとう……ここに呼んだのも口実だから、帰って大丈夫。ごめんね」
「こちらこそ、ありがとうございました……」
頭を下げて、作業を開始する先輩の背中を見たあとで部屋を出る。