本気の恋を、教えてやるよ。
「とにかく、ここでアンタを放って仕事に戻っても逆に集中できなくて迷惑だから。俺の迷惑になりたくなければ、大人しくここで待ってて」
わざとキツい言い方をしたのは、そうでもしないと稲葉が納得してくれなさそうだったから。
それでも稲葉は何か言いたげに、迷うように視線をさまよわせ、でも返す言葉が見つからなかったのだろう。「……ありがとう」と観念したように呟いた。
思わずよく出来ましたと褒めるように稲葉の頭を軽くなでると、稲葉は眉を八の字にして俺を見上げた。
守りたい、と強く思う。
この小さくて、ひたむきな存在を。
大人しくしてるように、と念押ししてから部屋を出て、給湯室に忍び込む。
備え付けの冷凍庫から勝手に氷を拝借し、手早く袋に詰めていると恐らくこのフロアで働いているのであろう社員が覗き込んできた。
「あら、あなた上の階の……」
「すみません。少しお借りしてます」