本気の恋を、教えてやるよ。
会議室や応接室が近い訳でもない、執務室寄りの給湯室を俺が使ってるのは違和感があるだろう。
警戒心を持たれないように、と謝れば、その人はいいのよー、と笑ったあとで、シンクに置いてあるマグカップに目を留めた。
「これ、稲葉さんのだわ」
「え?」
「うちの部の子なんだけどね。こんなところにカップ放置して、どこに行ったのかしら……」
それは怒っている訳ではなく、心配げな声色だった。
「ああ、彼女ならさっき他の部署の人に話し掛けられてるのを見ましたよ」
「あら本当に?大丈夫かしら……」
「まだ俺が戻る時に居たら声掛けときます。同期なんで」
袋の中に水を入れ、口を縛りながらそう伝えれば、その人はホッとしたように表情を緩める。
「そうだったのね、じゃあお願いしちゃおうかしら。ごめんなさいね、おばさん歳だからあんまり若い子たちの名前とか関係性を覚えてなくて……」
「いえいえ」