本気の恋を、教えてやるよ。




「……そんな言い方、狡いよ」


狡い言い方だってことくらい、わかってた。


だけど狡いのはそっちも同じだろ?


そんな潤んだ目で、拗ねたように俺を見上げて。


そんな顔で見つめられると、思わず「ごめん」と謝りそうになってしまう。


「……いいから、俺に任せて」


稲葉の視線に引きずられないよう、フイっと目を逸らしてそう言う。


暫く稲葉は大人しくしてたが、やがてそわそわと時計を気にしだしたので、声を掛けた。


「仕事なら大丈夫。さっきアンタと同じ部の人に会って、適当に誤魔化しといた」

「えっ」

「アンタのこと、心配してたよ。お人好しだから変な奴に捕まってないか心配、って」


まあ実際、そんなストレートには言ってなかったが。


稲葉はぱちくりと瞬いたあとで、「ええ……そうかな……」と悩むように眉を寄せたので呆れてしまう。


現在進行形でろくでもない奴が彼氏じゃねーかよ。



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