本気の恋を、教えてやるよ。



はあ。ため息をついた俺に稲葉が目を丸くした後で、そういえば、と声を掛けてきた。


「先週もこんなこと、あったよね」

「ああ……」


その時もアンタは顔腫らしてたよな。


思わず稲葉に触れていない方の手を強く握る。


自分の無力さに腹が立ってしょうがない。


傷ついていく稲葉をもう見たくないのに、それを阻止する術を俺は持ち合わせていないから。


本当はこんな、傷つけられてしまう前に助けたいのに、それが出来なくてもどかしい。


「最近、駒澤くんに迷惑ばっかりかけちゃってるなあ……」


ごめんね、と苦笑いを浮かべた稲葉。


「……もっとかけろよ」

「え?」

「迷惑なんて思ったことないから。もっと頼って」


俺を一番に、頼って欲しい。

稲葉にならどれだけ迷惑をかけられても、構わないから。


稲葉は俺の言葉に驚いているようだったが、すぐに花が綻ぶように微笑んだ。




< 99 / 392 >

この作品をシェア

pagetop