諷喩は僅か
わかるはずもなかった。
価値観が全く違くても、恋に落ちればどうにかなると思っていた。
不安に思ってほしかったあの人の我儘の末が、自分じゃない誰かと一緒にいることなら、私とあの人の関係はそれまでだった。
不安を感じないのは、あの人のことを信じていたからだ。わかってほしかった、あの人の気持ちは、これからもわかることはないと思う。
追いかけているのは自分ばかりだと思っていたのが、お互いの罪だった。しんどいのは自分ばかりだと思っていたから、私とあの人はは相手を傷つけることしかできなかった。
好きでもない女を抱くことができる理由を
好きでもない男に抱かれればわかると思った。
楠は、私の苦悩を“面白い”という一言で片づけて、あの日初めて私を抱いた。
「……っ、」
「冷たい方が、気持ちいい?」
「っ、ちが、」
「ああ、寒いんだっけ。じゃあとっとと抱いてやるよ」
コートも、セーターも、ヒートテックも、下着も。無理やり剥がして私の肌はあっという間に曝け出される。普段なら電気を消せというわたしに、抵抗させないように片手で口許を覆った楠は私を跨いで満足そうに笑った。
この表情を崩したかった。
ずっと、彼の思い通りのまま、私の気持ちなんてわかるはずもなく、そこら辺にいる女の中の一人として私を扱う彼に反抗も後腐れもない女をずっとやっていた。
どこか特別に感じてしまうようになった。それを期待だと思ってしまった頃には、もうわたしはどうしようもなかった。
彼には求めてはいけない。私と同じ気持ちを押し付けるわけにはいかない。じゃなかったら自然と訪れる別れまでに、私たちは終わっていただろう。