諷喩は僅か


「……はやく」

「――――――」

「はやく、抱いてよ」

「……煽ってんの?」

「言っておくけど私、この1年半あんた以外の誰にも触れさせてないんだか―――」



最後までは、言わせてくれなかった。
相変わらず自分本位な口づけをプレゼントしてくれる男は、耳元からゆっくり輪郭へと指を滑らせて器用にわたしの肌を弄んでいく。

もう少し煽って彼の真意を確かめるつもりだったのに本音が零れてしまった。彼に触れたいと、触れられたいと思う気持ちは決してただのセックスフレンドには抱かない気持ちだと思っている。



「、でんき、」

「今更恥ずかしいとか言えんの?」

「っいうし、」

「へえ、可愛げのある女を演出してくれるわけだ」



髪の毛に長い指を通して、そっと撫でる。まるでありきたりな優しい男を演出しておいて、前髪をよけておでこにそっと口づける。
これで私を愛してくれないのが不思議なくらいだ。そうやって何人もの女の子を“後腐れしかない”関係へと堕としていくのなら本当にタチの悪い男だ。面倒臭い相手を作っているのは自分だということを、そろそろ自覚した方がいいと思う。



「、」

「いっつも、楠の思い通りになるのが悔しい」

「……へえ?」

「たまにはこういうのも、いいでしょう」


上裸姿で何を言ってるんだ、と鼻で笑った男の首裏に腕を伸ばした。沈んだベッドから起き上がって、彼に自分からキスをする。
少しだけ驚いた表情を見せた彼に、こころの中で勝利のガッツポーズを取った。ほんの少しでも彼の隙をついて、私しか知らない楠を、今だけは自分のものにするのくらい許してほしい。

角度を変えて深くなっていくそれは、紛れもなく私本位だった。それは彼が何の抵抗もせず、反撃も食らわすにおとなしく私の口づけを受け入れているからだ。唇をゆっくりと離せば、銀色の糸が引いて、彼にされたように彼の唇に親指をぐりぐりと押し付けた。


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