諷喩は僅か
「血の味すんだけど」
「誰のせいでしょう」
「まあ、お前に攻められんのも悪くない」
「うん、じゃあ、今日はそうしよっか」
彼のパーカーに手をかけた。私の上に乗っかる大きな身体が、私によって服を脱がされているのを見るとなんだかかわいくて笑ってしまった。
そんなわたしを見て不満そうに睨む楠に、されたように髪の毛に触れてそっと撫でれば、大きくて可愛げのかけらもないような男がおとなしくそれを受け入れるもんだから、こころが疼いてまたこの男から離れたくない理由ができた。
一体いつ体を鍛えているんだと聴いたことがある。細身なのにしっかりと肉付いた上半身は、抱く相手へのそれなりの気遣いだと最初の頃に言っていた気がする。
鎖骨の下にそっと唇を寄せて、ちゅう、と吸いついた。ぴく、とシーツに沈んだ手のひらが動いたから、それだけで満足だった。
冬であることに感謝すればいい。お得意のハイネックの服を着れば隠すことができるだろう。
「―――わ、結構綺麗についた」
「……おい、どーすんのこれ」
我ながら上手についた所有印だと思う。
何度も彼につけられてきたそれをお返しするのは今日が初めてだった。なんとなく、自分以外とも好意をする彼に気遣ってつけなかったそれは、今更に毎度消えないくらい強くつけてやればよかったと後悔している。
「『これでしばらく、誰にも相手にされないね』」
「………、」
「楠がそう言ったんだよ。全然痕消えないから、彼氏できたの?って友達に勘違いされたこともあったし」
「……へえ」
「まあ楠なら、平気な顔してこの痕が消えないまま他の女の子と会って、何にもない顔して抱いたりするんだろうけどさ」
真っ赤な痕がついたそこを撫でて、彼に視線を合わせた。
理解できないのは、私の発言を聞いた彼が不満そうにわたしから視線を外したことだ。