諷喩は僅か
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わけもなく会うことができる、その終わりまで2か月しかなかった。
車で迎えに来てくれて、ふたりでこの場所に訪れて、ただ欲のままに身体を重ねることができるのは、わたしたちがここに住んでいる、その間だけだった。
実家を出て行くと決めたのは、内定をもらったときだった。
通えなくもないけれどかようには少し遠い会社の近くに住もうと思ったわたしと、全く同じ考えで実家を出て行くと決めた楠。
私たちが会う理由のはじまりは、別れたあの人が他の女を抱いていた、このホテルで身体を重ねることだった。
ここから離れる私たちに、それ以上夜を共にする理由は、ない。
あの人と別れる直前に彼に抱かれた、
あの瞬間の私は、もう二度と彼に抱かれることはないと思っていた。
想像以上につらかった別れの後に、彼が別れ際に言った『いつでも呼べば』に縋った。慰めてくれるならだれでもいい、わたしをそこら辺の女の子と同等に扱う最低な男に身体で慰めてもらおうと思ったわたしも、とっくに最低な女だった。
楠は、わたしが想像していたよりも何十倍も優しかった。あの人の友人なのに、あの人じゃなくて私のそばにいてくれた。別れた後もあの人と友人を続けながら、知らん顔してわたしに会っていた。
どっちも悪いだろ、と言いそうな顔をして、
どっちも悪くねえんじゃねーの、と歯切れ悪くぎこちなく私の話を聞いてくれた。
はやく忘れたい、というわたしに、そう言ってるうちはぜってえ無理だから諦めなと気が向くまで未練を持つことを許してくれた。
彼に未練を吐露する代わりに、身体を預けていた。愛とか恋とかいう戯言を理解できなくても、性欲だけはしっかりある男だった。
自分本位で自己中なセックスに対して、愛撫だけは無駄に丁寧だな、と思い始めた頃には彼を受け入れることが当たり前になっていた。