諷喩は僅か
「あーあ、また零した。それ、俺のパーカーなんだけど」
「……もー、全部、楠のせい」
「だから、悪かったって。さすがに俺の感情任せ過ぎたと思ってるし」
「いつもにまして、自己中だった」
「如月が煽ってきたから、半分そっちのせいな」
「なに、」
「自分で考えろ」
そんなこと言われても、わからないものはわからない。
まだはっきりとしていない頭の中で、断片的に覚えている数時間前の記憶を引き起こしていた。
わたしを乗り越えてベッドに戻っていく彼に隠れていた窓の外を見て、わたしは声を漏らす。
「―――ねえ、雪、降ってる」
「あー、お前が気絶してる間に降り出した」
「やっぱりもう、冬も終わるのかなあ」
「またその話すんの?」
開かれたカーテンの奥、真っ暗闇の中で降る白。
そう言えば去年もこうして夜が明けるのを待っているときに、雪が降っていたことを思い出した。
「もしかして私、毎年同じこと言ってる?」
「雪が降ると、『ねえ、もうすぐ冬も終わるのかな』ってな。言いながら気づいたら勝手に寝てんの、お前」
「うわー、言ってるかも。なんも成長してない」
「喘ぎ声ばっか大きくなってな」
「ちょっと、やめてよ」
体力のないわたしは、もう一度水が飲みたいと楠に縋る。やれやれ、みたいな顔をして彼はもう一度自分の口に水を含み、わたしにキスをした。