諷喩は僅か
「―――ねえ、聞いてもいい?」
「………なに?」
「……やっぱ、やめる。また今度にする」
「なんでだよ、きもちわりーな。今言えよ」
「………やだ、」
じわり、涙が滲む。自分で始めた会話に、やっぱり勝手に傷ついている。
私はこんなに脆い女じゃないし、すぐに泣いたりもしない。けれど彼の前でどれだけぼろを出してきた分からないから、彼の前にいるわたしはものすごく弱い。
これを言葉にしてしまったら、終わりなのかもしれないと思った。彼がさっき言葉にしてくれた意味を聞くということは、そういうことだ。
まるで恋人のように、彼に抱きしめられている腕の中で、わたしはひっそり泣いた。
おそらく楠は、わたしが泣いていることをわかっていたと思う。
「―――きさらぎ、」
「……ん、」
「お前は、俺じゃないだろ」
「――――ッ、」
「1年半、なげえよ。お前とアイツが付き合ってた時間分、一緒にいるんだよ。気づいたら、お前しか相手いねえし、お前に対して、後腐れしかねえ。いまだにアイツと会った話聞いて、クソむかついてる俺が一番うぜえんだよ」
「……っ、ちがう、」
「―――はやく、お前がどうにかしろよ。如月が始めた関係に、俺が無理やり終わらせられるわけがねえだろ」