諷喩は僅か
背中に回された腕は、強くて解けなかった。
どれだけ首を横に振っても、彼に私の気持ちはわからないんだと悟った。そう思ったら、もう、壊すしかなくて、どうしようもなくまた涙が溢れて、わたしは、
「終わること、考えたくない」
「―――――、」
「―――っ、いまは、それしか、言えない」
「……きさらぎ、」
「終わりなんて、来なくていい」
声が震えていた。
声を上げて、泣いた。
どれだけ泣いても、どれだけ伝えようとしても、この気持ちが伝わらないのだと思ったら、悲しくて、苦しくてどうしようもなかった。
メンドクサイって、言わないで欲しい。抱きしめるなら、もう離さないで欲しい。
離れたくない、それしか言うことができない自分の感情が、嫌いだった。
楠朔月が好きだった。
何が良くて、どこに惚れて、いつから好きなのかはわからない。
でももうずっと好きで、超えられるものは何もなくて、失うのが一番、怖かった。
認めたくなかったのは、彼が私のことを何とも思っていないと確証するのが怖かったからだ。
自分本位でもなく私を抱き寄せるその男に、期待したいと思ってしまったのだ。
言葉にしたら終わる関係にいい加減名前を付けて終わらせたかった。その反対で、曖昧でもそばに居れるならいいと甘えている自分がいたのも確かだ。
私の気持ちもわかってくれないけれど、彼の気持ちもわからなかった。私たちは、その先を聞けるような関係ではなかった。