諷喩は僅か
「―――じゃあ、考えんなよ」
「……っ、」
「……なに、泣いてんだよ。お前は、俺のせいで泣くような女じゃねえよ」
「わたしは、そういう女だよ、」
「―――――、」
「それでも楠は、そばにいてくれるの?」
最低な我儘だった。楠が嫌いな女とは、まさにこういう女の子だろう。
背中に回された腕の力が弱まって、一気に不安が募った。怖くなって、涙が引っ込んで、今すぐここから逃げたくて、彼から距離を取ろうとした。
「―――まて、」
「っ、なに、」
「俺は」
初めて、手のひらどうしが重なった。
1年半、手を繋ぐという行為だけは一切してくれなかった人だった。それが好意と行為の差だと察してから、わたしは一度も彼の手のひらに触れたりはしなかった。
指同士が絡んだ。
向こうが握ってくれた手のひらに、握り返す度胸はもう残っていなかった。
期待をしたい、と、傷つくのが怖い、が混在してこれ以上何も考えられなかった。
「くだらねえな、と思ってたよ。お前がぼろくそに泣いて未練たらたらであいつを思いながら俺に抱かれて、何が好きだ恋だ喚いて一人で壊れて、どうしようもねえ」
「………っ、」
「でも」
最後まで聞け、と言わんばかりに頭から抱き寄せられて、いつもの自分本位で強引なんかじゃなくて、優しく壊れないように触れて、わたしに期待をさせるんだ。
「―――もう、わかる」