諷喩は僅か
今は、それしか言わない。
楠は私と同じようなことを言って、わたしの髪の毛を指でそっと梳かす。
あまりにも優しく触れるそれは、さっきまでわたしをボロボロにした男と同一人物には思えない。
でも、そう言う不器用なところに惹かれた。
解放された頭をゆっくりと上にあげれば、こちらを見下ろした男が不器用に視線を逸らして、ただつながったままの手のひらにもう一度力を込めた。
始め方を、間違えた私たちは、
すこしずつ、間違いを探しながら、お互いの気持ちを探りながら、
すこしずつ、今の終わりを探すだろう。
終わらせたくないのなら、新しく始めればいい。
たかが身体を重ねるだけの関係じゃもう満足できないんだと、いま最大限に伝えられる感情を、楠は言葉を探しながら伝えてくれるだろう。
「『俺じゃない』じゃ、ない」
「………」
「だいたい、楠は、そんなこと言う男じゃない。むしろ『俺にしろ』くらい言う男じゃないの」
「俺にしろって言って大人しく俺にする女じゃねえだろ、お前は」
「俺にしろって言われなくても、お前にする女です、わたしは」
「あーそうですか、じゃあとりあえず意味も分からずアイツと連絡とったりするのやめたらどうですか」
「朔月くん、その感情ってどういう意味か知ってますか?」
「さあ、わかるわけもねえ」
「――――やきもち、って言うんだよ」