諷喩は僅か
初めて、彼の腕の中で眠っていた。
朝起きて、無防備にあくびをする彼に、どうしようもなく惹かれていた。
冬はもうすぐ終わるだろう。
ちっとも積もっていなかった昨晩の雪に、彼は最初から期待をしていなかったらしい。
もうここには来ない、と彼が言うから。
わたしたちのこれまでは、ここに置いていくことにする。
「ねえ、楠」
「なに」
「呼んだだけ」
「如月」
「うん?」
「呼んだだけ」
「――――だっる!」