諷喩は僅か






初めて、彼の腕の中で眠っていた。
朝起きて、無防備にあくびをする彼に、どうしようもなく惹かれていた。



冬はもうすぐ終わるだろう。
ちっとも積もっていなかった昨晩の雪に、彼は最初から期待をしていなかったらしい。




もうここには来ない、と彼が言うから。
わたしたちのこれまでは、ここに置いていくことにする。




「ねえ、楠」

「なに」

「呼んだだけ」

「如月」

「うん?」

「呼んだだけ」

「――――だっる!」



< 25 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop