諷喩は僅か
「コーヒー、あげる」
「あっつ、」
「寒いし、ちょうどいいでしょ」
「まあ、これの効力せいぜい5分だからな」
「じゃあ、今のうちにあったまっといてよ」
「ん、あざ」
煙草の火を消す。用意された灰皿に押し付けて、短くなったそれは塵になる。
窓を閉めて、エンジンがついた。冷え切った車内に、暖房の音が充満していた。
「ねえ、もう冬も終わるのかな」
「いや、はじまったばっかだろ」
「だってもう、2月になる」
「ちょうど半分終わったばっかなのに、気が早えよ」
「残りの半分なんて、いつもあっという間に過ぎるでしょう。そうやって2月が来て、もっとあっという間に終わって、3月になるんだよ」
「んな先のことばっか考えんなよ」
「だって、もう学生が終わっちゃう」
気づけば大学4年生が終わろうとしていた。就職活動に必死になっていたのがもう一年以上前のことみたいだった。
何にも考えていなかったし、何にもなりたくなかったのに、やりたいことを無理矢理決めて、やらなきゃいけない大人になろうとしていた。