諷喩は僅か
どうして知っているんだろう。答えは簡単だった。向こうが話したのだ。
あの人はそう言う性格だ。わかっているからわたしは、もう一度あの人に会うという選択肢を取った。
あなたがどう思うか、それだけを思っていた。
ひねくれていると思うならそう捉えてもらっても構わなかった。メンドクサイと思うなら、とっととそう思って突き放してくれてもいい。それくらいの気持ちだった。
普通の人なら、彼の態度を表すと怒りだと思う。けれど相手は楠だ。相変わらずなにも読めない男に、わたしはあと数か月でケリをつけなければいけない。
その準備を始めたと思えば、終わりがやってくる合図だった。
『あの人に会う前にだけ、甘ったるい匂いのするグロスをつけていたの。あの人が友達だったころ私にその香りが似合うって言ってくれたから。』
そんな話をしたのはいつだっただろう。
俺はそういう匂いマジで嫌い、見せつけて香らせたそれに毒を吐いていた彼を思い出す。
それを身に纏っている私と、それに気づいている男。彼の親指がわたしの唇を擦る。
その感情が、嫉妬であればどんなによかっただろうと思っていた。
「ヤった?」
「どう思う?」
「まあ別にどっちでもいいけど」
ぐりぐりと押し付けられた親指のせいで、ひりひりと唇が痛んだ。色の落とされたそこに近づいて、さらに傷つけるように歯を立てられた。
血が滲む味がした。相変わらず、なんて最低な男なのだろうと思う。
そんな男に、どうしようもない感情を抱いてしまっている私は、もっと最低な女なのかもしれない。