あの夜の星をもう一度
【2】過ぎた日々と忘れられない記憶
あの夜から、あっという間に7年が過ぎていった。
俺は高校を出た後、友人の祖父が暮らしていたという、沖縄の小さな離島にある古い民家を格安で譲ってもらい、近所のダイバーショップで働きながら改装を続けていた。
「蒼士くん、あとで頼みたいことがあるんだけど、来てもらって構わないかな?」
「はい。もう少しでここの補修作業を終わりますので、すぐに行きます!」
働かせてもらった間に貯めた貯金を使って、ようやくこの秋に立ち上げたのは小さなペンションと、この海に魅せられて取ったライセンスを生かしたダイビングショップだ。
まだオープンしたばかりで常連客というのも少ない。まだ旅行のパンフレットに載せてもらえるような力もない。
お店の内外装だって、まだ空き時間を見てDIYで仕上げている段階だ。
それでも少しずつインターネットを使った宣伝などを見たり、ありがたいことにお客さんがSNSで情報を拡散してくれたりと、訪れてくれる人が少しずつ増えてきた。
お客さんがいないときは、今でも少しずつ庭周りを整備したり、ダイバーを案内するポイントを探したりしながら過ごしている。
一人で大変ではないかという声もあるけれど、今の生活では誰かを雇って人を増やすことはまだできそうにない。
それに、俺はこの場所で一人でいることも悪くないと思うようになっていた。ここには自分が歩いてきた道を聞く人もいない。
「誰でも、いろいろな道を歩いてきておる。ここでは昔の戦争で家族を失った者も多い。過去にいつまでもこだわっていては前には進めない」
島の役場でも、過疎化が進んでしまうこの小さな島で、俺のような若い人間が定住してくれるのを喜んでくれた。
だから、お店の方にお客が入らない日があっても、島の人たちの便利屋として仕事をしては顔も覚えてもらえるし、贅沢はできないけれど暮らしていくこともできる。
この島を選んだのには理由がある。
初めて友人に連れてきてもらった日の夜。周囲が海であるこの島から見る星空を見たときに、あの日の夜空を思いだしたからだ。
あの日を境に、俺は実家に戻っていない。
それは両親が自分を手放したと同時に、彼女に会うことに躊躇いがあるから……。
「元気にしてるかな……」
陽菜は今頃どうしているだろう。今年は成人式を迎える年だ。自分の時には何を祝うことはなかった。言葉一つでもやりたいが、今はどこにいるのだろうか。
ただ、会えばきっと離れられなくなってしまう。
この年月の間に自分の携帯の番号を変えてしまっているので、陽菜から連絡を取ることはできないはずだ。
でも、それでいい……。もともとは他人なんだ。そう思っていた……。