あの夜の星をもう一度
【4】ずっとふたりで…
思いがけない再会の翌日、蒼士から島の海岸線を歩きながら暮らしや仕事の説明を聞いている陽菜の姿が目撃されていた。
「……こういう仕事だけど、今の会社勤めよりお金の面では不安定になるかもしれないぞ?」
「それでもいい。お金よりも時間を取り戻したいから……」
それから数か月が過ぎた夕暮れ、港でフェリーを待っていた蒼士に飛びつく陽菜の姿があった。
「本当に仕事辞めてきちゃったのか? みんな驚いていただろう?」
「うん。お仕事はちゃんと終わらせて、家具とかも全部あげたり売ってきちゃった」
陽菜から送られてきた引越しの荷物はほんの数箱。
前回は客室に泊まってもらったけれど、今回は陽菜用に空けた部屋に運び込んでおいた。
「陽菜、なんかみんなの中では、俺に嫁さんが来たと思っているみたいだぞ。あの数日で何があったんだってよく聞かれるんだけどさぁ」
荷物を片付けながら、最近の仕事の合間にみんなからかけられる話題を話してみる。
「うん、私はそれでいいと思ってる」
「本気か?」
だって、昔は「きょうだい」という存在だったのに……。
「私たち、もともと血はつながっていないんだもん。ちゃんと市役所とか弁護士さんにも聞いて調べてきた。だから、お父さんとお母さんにもさよならを言ってきたけど、もう私たちの記憶もほとんど残っていないみたいでね。だから全部引き上げてきちゃったんだ」
まだ自分たちが「きょうだい」だったことは、この新しい場所では話していないから、たまたま同じ苗字同士の歳の離れた二人が結婚するとしか思われない。
俺はまた当時の時間が戻ってくる程度にしか思えていなかったのに、それを全てクリアする方法を考えて実行に移してくるなんて、いつの間にこんなに強い女性になったのだろう。
「陽菜にはいろいろ教えてもらうことがいっぱいあるんだろうな。こんな世間知らずの俺でもいいのか?」
まさか兄妹として子供時代を過ごしてきた自分たちが、結ばれることができるだなんて。
「うん。お兄ちゃんだって、いっぱい勉強して苦労してここまで来たんだよね。そんなお兄ちゃんだから、次に会うことができたらずっと一緒にいられる方法を考えてた……。だから、もうお別れしないでいいんだよね?」
「そうだな」
二人で店先を片付けて、外の照明を消す。
「陽菜……。俺はこの星空を見てこの場所に住むって決めたんだ。あの日見たのもこんな星空だったよな……」
「うん。あの日、流れ星の間に3回のお願いはできなかった。でも、神さまはお願いを聞いてくれていたんだね」
あの夜と同じく、俺の背中に両腕を回してきた陽菜の上に、また一つ星が流れていった。