もう一度、その声が聞きたかった【完結】
お水を買って彼の病室へ。

病室のドアをノックすると
中からしっかりとした声で
''はい''と聞こえ少し安心する。

「あの、今話して大丈夫ですか?
もし診察で疲れていたら明日にしますが…」

『いえ、大丈夫です。
事故の事聞きたいので…』

「本当にすみません…。
私のせいでこんな事になってしまって。

実は1ヶ月半程前に接客した男性に
なぜか気に入られてしまったようで…。
とくに危害を加えられた訳ではなかったので
様子をみていたんですが…。
昨夜、フェアの立ち上げを手伝いに来てくれた鷲尾さんと2人でいる所を見て、勝手に勘違いしたみたいで…。
私を駅の階段から突き落とそうとして
それを鷲尾さんが助けてくださった上に
怪我までさせてしまいました。」

『怪我の事は気にしないでください。
頭の方も日常生活には問題なさそうなので
大丈夫ですよ。
それより倉木さん、怖かったですよね。
助けることができて良かったです。』

「助けていただきありがとうございました。
あの、退院するまでお見舞いというか
お世話しに来てもいいですか?」

『えっと、お仕事大変なのに大丈夫なんですか?』

「遅番勤務なので時間は限られますが…
着替えなど必要なものが有れば言ってください。」

『まだ検査があって1週間程の入院になりそうなんですが、入院着やタオルはレンタルするので、その…下着の替えと歯磨きセットをお願いしてもいいですか?
今日はもう遅いので明日でも大丈夫です…。』

彼が耳を赤くして私にお願いした。
私は快く引き受けた。

私はさっき買った水のペットボトルを差し出す。

彼は受け取ると少し考え私の方を見た。

『あの…開けてもらってもいいですか?』

「あっ、右手使えないんですよね…。
すみません、気付かなくて…。」

私はキャップを開け、水を彼に差し出した。

彼は顔まで真っ赤にさせていた。

こんなことで照れてる彼をみて
私のこと本当に覚えていないんだと
現実を突きつけられた。
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