もう一度、その声が聞きたかった【完結】
「いやっ『さくら!』」

私は聞き慣れた声に、顔を上げた。

「ゆ、うと?どうして…?」

そこには息を切らした勇人がいた。

『ごめん、驚かせて…。
さくらが心配で顔見に来たんだ。
夕方にメール入れて仕事が終わるまで
カフェで待ってたんだけど
全然既読にならないし焦った…』

「ごめん…全然スマホ見てなかった。」

私たちはタクシーを乗り一緒に帰宅した。

「明日仕事だよね?家に来て大丈夫なの?」

『明日始発の新幹線で戻るから大丈夫だ。
それより、さくらは大丈夫なのか?
こんな時はすぐに連絡してくれ
すぐに飛んでくるから…。
今回は怪我で済んだけど
さくらにもしもの事があったら…。』

彼は私を強く抱きしめる。

「す、ごく怖かった…
あの時のあの男の目が…顔が…頭から離れなくて。」

話をしただけでも体が震える私の背中を
彼の温かい手が優しくさすってくれる。

私は彼の腕の中でやっと泣くことができた。
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