もう一度、その声が聞きたかった【完結】
引っ越し当日
家具や段ボールを業者に引き渡し
小さめのキャリーバッグを手にタクシーに乗り
伊丹空港へ向かった。

あの事件が遭ってから
電車はもちろん駅にすら立ち寄りたくないので
飛行機で東京に戻った。

羽田空港には勇人が迎えに来てくれていて
今日はそのまま勇人の家に1泊することになっている。
明日の朝、新居に荷物が届く。

「お迎えありがとう。」

『移動疲れただろ?ちょっと休むか?』

「一緒にゴロゴロしてくれる?」

『いいよ、一緒に昼寝しようか。』

ベッドに入ると彼は私を引き寄せ
彼の胸に顔を埋めた。
彼の温もりと鼓動を感じながら
私は目を閉じた。


夢の中で肩を押されて体がビクッとなり
私は目が覚めた。

(まただ…)

寝室は薄暗く、隣に彼の姿はない。

私はベッドから起きリビングに向かった。
ソファで勇人が雑誌を見ていて私は彼の横に座る。

「ごめん、寝過ぎちゃったみたい。」

『いいよ、寝不足だっただろ?
顔色少し良くなったな…。』

彼は私の頬を両手で掴み顔をマジマジと見る。

「勇人…。どうしたの?」

『いや、飯作るわ。』

彼は私の顔から手を離すと立ち上がり
キッチンへ行ったしまった。

なんだか彼の様子がいつもと違う気がした。
< 121 / 168 >

この作品をシェア

pagetop