もう一度、その声が聞きたかった【完結】
ふと後ろから肩を叩かれた。

圭介かと思い私は慌てて振り返った。

しかし、視界に入ったのは
私が最も会いたくない男だった。


『倉木さん、なんで連絡くれないんですか?
僕、ずっと待ってたのに…。
あっ、ネックレスも着けてないんですね…。』

メガネを触りながら
じわじわと距離を詰めてくる田中。

私もそれに合わせるようにうしろに下がる。
けれど後ろは階段で
下がるには限界があった。

『もしかして、僕はタイプじゃないから
連絡くれないんですか?
さっきの男がタイプですか?
彼、カッコイイですもんね。
倉木さん、楽しそうだったし。』

「・・・」

『あれ、図星ですか?
なんとか言えよっ!』

田中の顔から笑顔が消えた。

私は恐怖で逃げようにも体が動かない。

終電間際の駅。
周りにちらほら人がいるのに
この変わった様子に誰も気が付いていない。

「ご、ごめんなさい…」

私は言葉を絞り出す。

田中はフッと笑い、私の肩に手をかけ
そのまま後ろに押した。

「あっ…」

私のノドから乾いた声が漏れた。
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