もう一度、その声が聞きたかった【完結】
記入した書類と保険証を看護師に提出する。

ちょうど和田さんが病室にやって来た。

『倉木さん、大丈夫?大変だったわね…。』

「私の怪我は大した事なくて…
でも…まだ目を覚さなくて…」

私は彼に視線を向けた。

『だいたいの事情は分かったけど、
倉木さんと鷲尾は知り合いだったの?』

「実は大学生の頃、お付き合いしていました。
あのご挨拶の時に5年振りに再会して…」

『そうだったの…
だからあの時2人とも様子が変だったのね。』

「あの、私、彼のお母様に連絡したいんですが、和田さんご存知ですか?」

『彼ね、ひとりなのよ。
母親は大学卒業してすぐに亡くなったそうよ。
若いのに脳梗塞で突然だったみたい。』

「えっ…そうだったんですね…」

彼が母子家庭で育ったことは
付き合っている時に聞いていた。

女手一つで東京の大学に行かせてくれた事に
すごく感謝していたのを覚えている。

たった1人の家族だったのに…

あの時の私の決断はもしかしたら…
彼の家族を作るチャンスを奪ってしまったのかもしれない…


彼の心情を考えると胸が苦しくなった。
< 96 / 168 >

この作品をシェア

pagetop