もう一度、その声が聞きたかった【完結】
もしかして…

「あの私、style me大阪店 店長の倉木です。
……覚えていませんか?」

私の声は震えている。

『えーっと、すいません…思い出せない…。
先輩から引き継ぎをしたので名前は知ってます。
ご挨拶まだでしたよね…?』

「・・・・」

''私の事だけ覚えていない''
彼の話を聞くとそんな嫌な予感しかしない。

その様子を見ていた医師がさらに続ける。

『生い立ちを聞いてもいいですか?』

『東京で生まれて大学卒業後に
今の会社に入社して2年前から大阪支社に。
あれ、大学…青大に入学して……
んー、大学時代が思い出せないです。』

私の中で、疑問が確信に変わっていく。
彼は私のこと…

こんなとき嫌な予感ほど当たってしまうのだ。


医師の話では
''解離性健忘"という記憶喪失。

強いストレスやトラウマで引き起こされるといわれているそう。


私は医師の言葉に全てを悟った。

彼は私との過去を忘れてしまった。

彼にとって消してしまいたい程
強いストレスになっていたんだと…。
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