リサイクルショップ おおたき

 一方、岩野は屋上にいた。あのレプリカの月に、どうしても触ってみたくなったのだった。近づくと光が強く、まぶしかった。サングラスを持ってくればよかったのかな、と思った。

 何も考えず素手で触れてみた。いや、手を伸ばしたが触れることはできず、そのまま腕が内部に呑み込まれた。ところがなんの感触もない。これは立体映像みたいなものだろうか、と岩野は特に思わず、なんで触れないんだろう、変だなあ、まあいいか、と思った。

 そんなことよりも、球体の中に突っ込んだ手はほかほかと暖かくなってきて、なんとも居心地がよいと思われた。そこで岩野は、命知らずにももう片方の腕、左足、右足、と遂には全身を球体の内部に呑み込まれてしまったのである。

 そこは岩野の創造通りの空間だった。月の内部からは、外側は見えない。生き物のような温度だ。なにか、ふわふわとしたものに包まれ、守られているような心地がした。眠気が来るまで数分ともたなかった岩野は黄金のふわふわとした足場に大の字になり、本格的に寝入ってしまった。
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