日直当番【完結】

この感情の名前

 来る月曜日の朝。

学校に来ると、教室前の廊下で進藤くんが女の子と話しているのが見えた。例の女の子だ。女の子はニコッと笑顔をつくり、ひらひらと手を振って去っていった。両手には教科書やらノートやらを抱えていた。

「おや、神崎さん。おはようございます」

「おはよう」
 私が教室の自分の席につくと、進藤くんも自分の席に戻ってスクールバッグの中身を出し始めた。教室に入ったばかりのところをあの子に呼び出されたわけか。

「また勉強を教えるの?」

「ああ、永井さんですか?教えるってほどでもないですけど、まあ」

「その永井さんって子とどうやって知り合ったの?」

「中間考査が明けてしばらく経った頃、たまたま図書室で勉強していたら声をかけられたんです。僕のこと、テストの順位表を見て知ったらしくて、勉強を教えてほしいと時々放課後にやって来るようになったんです」

「人に教えてばっかで自分のテスト勉強は大丈夫なの?」

「自分の勉強に支障が出るなら、人のために時間は割かないですよ」

「ふーん。嫌味…」

 そんなに前から知り合いだったんだ。放課後、私は部活をしているからそりゃ知らないわけだ。進藤くんは、私のよく知らない女の子と会って一緒に勉強している、という事実を頭の中で咀嚼する。進藤くんは、私のよく知らない女の子と、私の知らない世界をもっている。

なんで友達の少なそうな進藤くんなんかの人間関係に関心をもつのか。他人の人間関係なんて網の目のようにいろんな人とつながりがあるわけだから、私が知らないことがいっぱいあって当たり前なのに。

 今週はやたらに永井さんの姿を2年生のフロアで見かけるようになった。テスト前だから頻繁に進藤くんに会いに来ているのだ。永井さんが教室に現れる度、ついついそちらの方が気になってしまう。
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