奪われたので、奪い返すことにしました【年齢制限版】

 なんだか自暴自棄になっていたのだが、気分を取り直そうと街で評判の髪結いの元へと向かうことにする。
 一応、伯爵令嬢であるため、髪結いを屋敷に呼び出しても良かったのだが、とにかく気分を変えたかった。

「もうばっさり切ってください――お願いします!」

 わたしの髪を切る担当になったのは、とても艶やかな白金色の長い髪に蒼い瞳をした、この世の者とは到底思えない、とても綺麗な女性だった。

「スピカ様でしたね? 何があったのですか?」

 何があったのか尋ねられ、街で噂になるのも憚らず愚痴をこぼしてしまう。
 婚約者に振られたこと、父の爵位は伯爵だが、婚約者だったデネブは侯爵だったこと、そのせいで、特に相手にダメージなどなく婚約破棄を受け入れなければなかなかったこと……。

「でも……わたしが悪いんです……わたしが彼の望むような派手な美人になれなかったから……」

 彼と寝ていた女性のことを思い出した。
 豊満なバストにくびれたウエスト……妖艶な笑みを浮かべた魅力的な彼女は、大層美人だった。どうやら彼と同じ侯爵の父を持っているらしい。

 とは言え、目の前にいる髪結いの女性の方が、この世の者とは思えないほどに美しいのだが……。

 自分とは正反対な彼女と自分を比較してしまい、ぽろぽろと涙が零れてしまう。

 そんなわたしに、目の前の髪結いが優しく声をかけてくれる。


「スピカ様、スピカ様にはスピカ様の良さがございます」


 わたしの髪を壊れ物のように丁寧に、彼女は扱ってくれた。

 鏡の前に映るわたしの髪は、肩先で切りそろえられていた。

(まるで別人のように可愛らしくなってる……)

 新しく生まれ変わった自分を見て、自分でドキドキしてしまう。


「やはり、原石のような方でしたね……ねえ、スピカ様……」


 老若男女、全ての人を蕩かしそうな笑顔で、鏡越しに彼女が声をかけてきた。


「奪われたのなら、奪い返すことにしましょう?」



 その日から、彼女とわたしの奇妙な友人関係が始まったのだった。
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