ユダの巣窟
ガタン、ゴトンと揺れにつられて僕は覚醒した。頭が痛い。

ゆっくりと当たりを見回したところ、他に数名同じ空間にいた。ここは馬車の中だ、と人知れず悟った。さらに僕も含め、皆手枷(てかせ)をされていた。

(僕は売り飛ばされたのだろうか…。)

しかしその考えはすぐに破綻した。家に帰り、玄関の先に待っていたのは抜け殻同士が仲良く寄り添いあってくつろぐ光景だった。

血なまぐさかった。

僕の足は勝手に崩れた。ただ、すぐそこに、今この寸前までここにいた存在を眺める他なかった。

それを見て何を思ったのか。今はもうわからない。思い出すのは褐色に染ったソファと(しかばね)が目を見開いてこちらに笑いかけてくる、滑稽な絵面だった。

向かいの小さな除戸(のぞきど)から霞む月が見えた。夜風が優しく伸びきった前髪を揺らした。

そして、また眠りにおちた。
< 8 / 30 >

この作品をシェア

pagetop