稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
 何と言ったっけ。お父様に伝えるといいつつ聞いた名前を忘れてしまった。なんとか伯爵に捕まれたところがどうなったのか。
 じくじくと痛い。
 捕まれた左手の手袋を外すと、肘から指先まで真っ赤になっている。捕まれていたところは、若干腫れて熱も持っているようだ。
「これは酷い……」
 ……ここまで酷いアレルギーは久々だ。赤くなるくらいならすぐにひくけれど、こうなってしまうともとに戻るのは数日かかるかもしれない。
 呼吸が苦しくならなくて良かった。
「冷やせば少しはましになるのかな?」
 噴水のふちに腰かけて、水に手を伸ばす。
 んー、思ったより水が遠い。これは、座って手を伸ばすのではなく、膝をついて身を乗り出して手を入れたほうがいいかも。
 と、体を動かしたところ、後ろから声がかかった。
「危ないっ!」
 そして、後ろから腕をつかまれた。
 男の人の声だ。
 噴水の水に伸ばしていたのとは反対の腕をつかまれる。
 ひぃーっ。
 そっちの腕も赤くなるから。
「大丈夫ですか?こんなところでどうしたんです?気分でも悪いのですか?」
 私を気遣う言葉に、離してくださいと冷たく言い放つこともできなくて、恐る恐る振り返る。
「あの、助けていただいてありがとうございます」
 別に助けてもらうような状態では無かったんだけど。きっと、噴水に落っこちそうに見えてとっさに腕をつかんで支えてくれたのだろうと解釈してお礼を言う。
 驚いたように目を見開く青年がそこにはいた。
 あら、イケメン。
 ……まぁ、つまり、男だ。
「もう、大丈夫ですから……」
 手を放してくれ。私の腕からその手を……あんまり長く触れてると、体が痒くなったり……ん?ならない。
 ぶつぶつが出てきたり……ん?出てこない。
 周りが赤くなったり……ん?赤くならない。
 くしゃみ……も、出ない。目もかゆくならない。あれ?
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