稿 男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~
「分かっている。結婚したくないというのだろう?」
 お父様の怒りは少し収まったようで、テーブルの上に置いてあったカップからごくりと水を飲んで喉を潤す。
 ふぅとゆっくりと息を吐きだすと、私の頭を撫でようと手を伸ばして、すぐにひっこめた。
 お父様がちょっと悲しそうな顔を見せる。
「お父様大丈夫です」
 ニコリとほほ笑んで、お父様の手を取り、頭に導く。
 撫でてほしい。もう17歳。社交界デビューするのは通常15歳だ。大人として扱われる年齢。もう子供じゃない。
 だけれど、子供のように頭をなでてほしかった。
 お父様が私の頭をゆっくりと愛しそうに撫でてくれる。
 だけれど、その時間は長くなくて。

「すまん、リリー……赤くなってしまったな」
 どこか見える場所が赤くなってしまったようだ。お父様が心配そうな顔を見せる。
「大丈夫です。息も苦しくありませんし、痒くもありません。赤いのはすぐに収まります。それよりも、お父様に撫でていただけてとても嬉しいんです」
「リリー……」
 本当は、ぎゅっと抱きしめてほしい。もう17歳になるというのに、親に抱きしめてほしいなんておかしいだろうか。
 だけれど私は、10歳でお母様を亡くしてから、家族に抱きしめられた記憶がない。
 お父様にも、お兄様にも……。
 唯一私を抱きしめてくれた家族……ううん、抱きしめることができた家族である母が亡くなってからは……、極度の男性アレルギーを持つ私をお父様もお兄様も抱きしめることはない。
 そう、私は、男性アレルギーを持っている。
 相手によって、出る症状は様々だ。一番症状が出ないのがお父様。触れてもせいぜい肌のどこかが赤くなる程度。ただ、抱きしめたりあまりに密着すれば全身に湿疹がでたりすることもある。
 成人前の子供であれば、大丈夫。だけれど、男児から男性になってしまうともう駄目だ。
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