ゆるふわな君の好きなひと

「あれ、由利じゃん」

 久我山先輩が、右手を軽くあげて由利くんに声をかける。


「ども……」

 顔を正面に向けたまま、無表情で首だけを少し前に動かした由利くんを見て、久我山先輩がククッと笑う。


「相変わらずやる気ねぇ挨拶だな。お前もケガ? いや、違うな。サボって寝るつもりだろ。マジメに授業出ないと、また眞部に怒られるよ」

 バスケ部内でも、眞部くんの保護者ぶりは浸透しているらしい。久我山先輩が笑って由利くんをからかう。

 だけど由利くんはそれに対して無反応で。久我山先輩は、そんな由利くんを見てますます笑っていた。


「青葉さん、絆創膏ありがとう。助かった。由利も、またな」

 絆創膏を貼り終えると、久我山先輩はわたしと由利くんに手を振って笑顔で去って行く。

 久我山先輩が行ってしまうと、その場にあった爽やかな空気が一転して、重苦しいものに変わった。

 保健室のドアのそばに立ったままの由利くんは少しも動く気配がなく、わたしのことを無表情で見ている。

 見つめてるとかじゃなくて。ただ、見てる……。空洞みたいな冷たい目で。

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