ゆるふわな君の好きなひと

「わ、わたし、教室戻るね!」

 由利くんが立っているドアのほうに近づいて行き、思いきって話しかける。

 無反応な由利くんの横をそのまま通り抜けようとしたら、「ねぇ」と声をかけられた。

 まさか呼び止められると思わなかったから、ドクッと心臓が跳ね上がる。

 期待半分、怖さ半分。

 何を言われるのだろう、と振り向くと、由利くんが無表情で小さく首を傾げた。


「青葉が昨日、おれとの約束放棄したのって、やっぱり久我山先輩が好きだから?」

「え……?」

「憧れと恋愛の好きって、ビミョーだもんね」

 由利くんが息を吐きながらそう言って、ゆっくりと踵を返す。

 そのまま、保健室には入らずに廊下をどこかへ歩いて行こうとするから、困惑しながらも、由利くんのカーディガンの袖をつかまえた。


「ま、待って」

「なんで?」

 面倒臭そうに振り向いた由利くんの声は冷たい。


「保健室、昼寝しに来たんじゃないの?」

 由利くんの冷たい声に焦ったせいもあって、口に出した質問は、今の空気に全くそぐわない。

 由利くんが、わたしを見下ろして顔をしかめた。

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