ゆるふわな君の好きなひと
「見たい映画って、何?」
由利くんの視線が、左腕に縋る岡崎さんに向けられる。
その眼差しも口調も、決して優しくはないけれど、由利くんからまともな返しをもらえた彼女は嬉しそうに頬を紅潮させていた。
「え、っとね。これなんだけど……」
慌ててスマホを取り出した彼女が、検索して出した画面を由利くんに見せている。
「あー、なんかこの前テレビで宣伝してんの見たかも」
「そうそう。今、すごい宣伝してるよ。一緒に行こうよ」
ふたりでスマホを覗き込む由利くんと岡崎さんの距離が近い。
嬉しそうに声を弾ませる彼女にも、わたしへの当てつけみたいに急に彼女の話に興味を示した由利くんにもイライラする。
「そこー。イチャイチャしてないで行くよー」
いつのまにか、スマホを覗き込む由利くんたちと一緒にいた集団とのあいだには距離ができていて。先にファーストフード店の前に着いた集団のひとりが、由利くんたちをからかう。
「そんなんじゃないし! 行こう、由利」
顔を真っ赤にして大声を出した岡崎さんが、由利くんのことを引っ張っていく。
ファーストフード店の前の集団のほとんど全員が、岡崎さんと強制的に引っ張られて歩く由利くんを見てニヤニヤとしていた。
みんな、岡崎さんが由利くんを好きなことを知っている。そういう雰囲気だ。